「悟空・・・死んでくれませんか」

一瞬、お師匠さんが何を呟いたのかと、己の耳を疑った。
隣では、八戒さえも、目を丸くしていた。

その“血迷った言葉”に含まれていたもう一つの意味を知った時、
俺の胸の奥に、水面に墨を垂らしたような澱みが拡がっていった。

―――強い心を持つ、貴方なら。
―――おししょさんは、俺のコト、信じてくれてンだろ。

二人の声が、頭の中で濁って腐り、思考を侵してゆく。

 

 

 

   RAINNIN' like cats and dogs

 

 

 

ざあ、ざあ。

狂ったように降り注ぐ雨が、帷子に沁み込んで。
擁いている感情は、永久にその冰の心に閉じ込めておけ、と。
曝け出してはいけないのだと。

俺を、責めて、責めて。
ただ、責め続けて。

今なら、水が爆ぜる音だけで、酔ってしまえそうな気がする。
くらくらと、眼の前が揺れて、胸が締め付けられて。

(なんで、お師匠さんは、俺を選んでくれなかった・・・?)

お師匠さんの為なら、なんだって出来る。
女を誑かすのを止めろと言われたら、間違いなくそうするだろう。
混世魔王の下で、人殺しばかりしていた俺が、殺生を止めろと言われれば止めたのだから。
なんでも・・・自我を棄ててでも、俺は、貴女の仰せの通りに出来るのに。

(俺の心の強さが、悟空に・・・あんな馬鹿猿に劣る、と・・・!?)

どうしようもなく愚かな憤りだと。
自分でも呆れて仕方ないことだが、悟空に、そしてお師匠さんに、黒い感情を向けずにはいられなかった。

そもそも、俺達が花果山に立ち寄ったのがいけなかったんだ。
あそこで、あの馬鹿猿なんか・・・助けなければ・・・
ずっと、あの岩牢に閉じ込めておけばよかったんだ・・・



―――気付かぬフリをして、理性の奥へと鍵を掛けた、俺の想いのように。



『私と一緒に、天竺へ行きませんか』

お師匠さんの心がアイツに揺らぐことなど、なかった筈なのに・・・

『あったけぇ手だな・・・・・・』

一つの石ころと共に包み込まれた、お師匠さんの手。
何者をも毀れず掬い上げ、暖かい慈愛で救い上げる。
晄を振り撒いて、必ず大切なものを残していく、その手は。





―――その手は、俺が握り締める筈だった、俺が包み込みたかった・・・





ざあ、ざあ。

今の俺の手の中にあるものは、突き刺すように冷たい雨の雫。
掌に淀み溜まったそれは、指の合間から溢れて、堕ちて。
雨が毀れても、この想いだけは。
間違っても、毀すわけには、いかないんだ。
・・・・・・決して。

あの瞳も、暖かい手も、信じる心も。
総てに眼を背けて。
彼女を想うことが赦されないと云うのなら、せめて。

―――俺は、貴女の傍で、貴女を護る。





ふと、雨の冷たさを感じなくなる。
空を見上げれば、



雲の切れ間から、陽の晄が零れ落ちていた。





+++了+++

 

 

 

 

 

<AFTER WORD -後書->

昨今、土砂降りの雨っていう表現を“cats and dogs”なんて言ったら笑われますよね(w
お前はいつの時代の人間なのかと。古いぞと。
今だったら、“It's coming down in buckets.”=バケツひっくり返したみたいだよ、というのが正解?
いずれにせよ、もう英文の勉強してないから、曖昧な知識しかございません orz

そんなヨタ話はさておき、悟空×三蔵←河童さんの独白小話。
短いにも程があるっつう話なんですけども。

もうね、悟浄はただひたむきに、三蔵しか見ていないといいと思うわけですよ。
おししょさんおししょさんばっかり言ってる悟空のコトをですね、
心の底でムチャクチャに憎んでいればいいと思うんですよ<はいはいフィルターフィルター
でも、やっぱり悟空は自分にとっては“なまか”で、更に、自分より遥かに強い悟空が、
おししょさんを護るのは適任だということが分かってるから、余計に憎しみを募らせているといい。

どう見ても腐女子の妄想垂れ流しです。本当にあr(以下略)

(2006/05/04)

 

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