MaИ-ЁateЯ - 人喰い -

 

 

 

一行は、とある村の旅籠に泊まっていた。
三蔵と悟空、悟浄と八戒という二組に分かれて、彼らは部屋で疲れを癒していた。

夜も更けきり、満月の明かりが眩しいほどに窓から降り注ぐ。
月光は、この世の全ての生き物に沁み込んでいくように、白く透き通っていた。

床に就いていた三蔵は、隣の寝台で眠っていた悟空が、むくりと起き出す気配を感じた。
薄く瞼を持ち上げると、悟空が窓から夜空を見上げていることに気が付いた。
ただ、じつと、何かに引き込まれるように、無言のまま。
普段の騒がしい悟空からは想像出来ない程に、真剣な眼差しで、星が瞬く空を見つめている。

三蔵は寝台から降りると、枕元に置いてあった冠を被り、同じように押し黙ったまま、悟空の隣に立った。
空を仰ぎ、悟空と同じ処に目線をやる。

   ぎゃあっ。

唐突に、濁った鳴き声がしたかと思うと、一羽の鴉が満月に翳を落とした。
まるで、月に、梢に留まった鴉の形をした穴が、ぽっかりと開いたように見えた。

やはり、悟空は口を閉じて。
身動ぎ一つ、しようとはしない。

「悟空」

自分より幾らも丈が高い悟空の顔を覗き込んで、三蔵が声を掛けた。
だが、彼は、同じところを見据えたまま、応えなかった。

「・・・・・・悟空?」

余りにも様子がおかしい彼を見かねて、三蔵の声が、いよいよ不安を帯びてくる。
何か、妖術でも掛けられたのか。
そんな疑問を胸に抱きながら、掌で、悟空の頬に触れようとする。
刹那。

   ぱし。

黄金色の毛むくじゃらの手が、人間のか細い腕を掴んだ。
そして、その腕に合った、折れそうに細い体躯を引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
何の前触れも無い弟子の強い抱擁に、三蔵の臓腑がどくどくと速く脈打った。

「ごっ、悟空ッ、何をして・・・」
「おししょさん、俺、肉喰いてェ」

行為に合っていない、悟空の脈絡の無い言葉。
抱き締められたまま、混乱の中で、三蔵は訊ねた。

「お腹が、空いたのですか? ・・・困りましたね、こんな夜遅くに、食堂は開いていないでしょうに」
「何言ってんだよ、おししょさん」

悟空は三蔵から少し身体を離して、黒く輝く真珠のような彼女の瞳を、真っ直ぐ射抜くように見つめる。
何もかもを見透かすような、どこまでも澄んだ、そんな視線で。

「悟空、肉を喰らいたいというのは、即ち、それは・・・生き物の生命を奪うということです。
 私は、御仏に仕える身、貴方はその弟子。殺生は赦されるべきことではありません」
「だから、さっきから何言ってんだ、おししょさん。俺が喰いたいって言ったのは、その肉じゃねェ」

俺が喰いてェのは、こっち。
そう呟きを落とした悟空は、三蔵の指を取り、ぱく、と緩やかに口に含んでみせる。
予想もしなかった悟空の仕草に、三蔵の身体がびくんと硬直する。
固まる指先に、生暖かくぬるりとした感触が奔り、三蔵はそこを舐められたと知る。
思わず手を引っ込めると、悟空の口唇と三蔵の指の間に、銀の絃が煌く。

「ひゃっ、な、何をするのですッ」
「おししょさんの肉って、喰ったら不老不死になれンだろ?」
「そんな・・・! 悟空ッ、貴方は、根も葉もない妖怪達の噂を信ずると言うのですか!?」

三蔵の瞳の奥に、怒りの焔が燃え上がった。
身を捩って、頻りに彼から離れようと試みるが、悟空はそれを許さない。

「いちおー、俺も妖怪だかンな。
 それに、不老不死になったヤツの肉喰ったら、そいつも不老不死になるって言うじゃんか」

底抜けに明るい声で、本当に嬉しそうに。
微笑みながら、悟空は三蔵の耳に口を寄せ。

「俺がおししょさんを喰って、不死身になった俺を、今度はおししょさんが喰う。そしたら、二人揃って不老不死じゃね?」
「なんということを!」

出し抜けに、悟空の頬に鋭い熱が奔った。
見ると、三蔵が肩で息をして、己の掌を茫と見つめていた。
赤くなり、暫し遅れてズキズキと痛み出す、その掌を。

「痛ェ・・・何もぶつことねェだろッ!」
「悟空ッ、貴方は・・・いつからそのようなことを考えるように・・・」
「だってッ! 俺もおししょさんも死ななくなったら!」

弟子の愚かな考えを聞いて怒りに震える三蔵の言葉を切るように、悟空は声を上げた。
地も轟と唸るような、けれど、どこまでも静かな。



「ずっと一緒に居られるじゃねェかよッ!!!」



呻くような声が、三蔵を打った。
途端に、堰を切ったように溢れ出す、悟空の言葉。

「旅の目的は、天竺に行くことだろっ? 天竺に着いたら、俺達の旅は終わっちまう・・・
 そしたら、なんか、おししょさんがどっか行っちまう気がすンだよ・・・俺達を置いてッ。
 そんなの、俺はイヤだ、ぜってェにイヤだッ! 俺は、おししょさんと離れたくねェ!
 だって俺は、おししょさんが好きだからッッ!!!」

思いがけない弟子の言葉と同時に、獣が噛み付くような口づけを、己の口唇に感じた。
息が詰まったかと思うと、身体が前にガクンと倒れ、三蔵は、悟空の伸ばされた腿の上に座り込んだ。
何が起こっているのかさっぱり掴めないまま、三蔵は深い口づけを受け入れ続ける。

抵抗など。
する気も起きなかった。
ただ、真っ直ぐな告白が、三蔵の胸を熱くした。

「だから、おししょさんを喰わせて」

三蔵の腕は、自ずと、悟空の腰に回されていた。





下衣を少し下ろされ、秘部を覆う布を破られ。
袈裟はそのまま。
前戯もままならぬ状態で、三蔵は、猛る悟空を受け入れた。
身を引き裂くような激痛だったが、想いをぶつけてくれた彼に対して報いる如く、それに耐えた。
ずきんとした痛みが下腹部を包んでいたが、暫くすると、三蔵の口からは湿った息が吐かれるようになる。

「んッ、は、アぁ・・・」

繋がった部分が擦れて、淫靡に水音を奏でる。
一定の拍子で漏れるその音に、三蔵の顔が桜色に上気し、耳まで染め上げられていく。

着衣のままで。
御仏に仕える自分が。
こんなにも、姦淫に溺れてしまう。
なんと、罪深きことか。
天の原の菩薩様は、こんなに穢れてしまった私達を見て、何とお思いか。
そんな自責も、烙印のように刻まれる快楽に、焼け焦がされて消えてゆく。

「おししょさん、ちょ・・・キツい、よ」

己の中心を抑えつけるかのように締まる、師の内部。
挿れる時から既にキツかったそこは、激しく奥を突かれることで、より強く収縮する。

「俺、が、喰われ・・・ちまう・・・ッ」
「ッは、う、んッ、ご・・・くぅ・・・」

悟空の首に回した腕は、やがて空を掻き。
導かれるかの如く、三蔵の指が黄金色の髪の中へと差し込まれ。
細く肢体が弓なり、顎が上ずる。
対面座位のまま悟空と繋がっている三蔵は、彼の頭を包みながら仰け反って、甘い嬌声を上げる。

「好きだ・・・おししょさん」
「ふ・・・ッ、わ、たしも、ですよ・・・っ、悟空・・・」
「ずっと、ッう・・・、一緒、に、居よう・・・ッ」
「悟空・・・っ、悟、空・・・・・・っア、」

互いを想う言葉は、三蔵の頭から転がり落ちた冠の音に飲まれた。
往く先は、絶頂。
もっともっと、と、貪欲に深く動く二人の腰。
その度に上がる師の切ない声と白い咽喉に、悟空の背中がざわりと疼くのだ。

「ヤバ・・・ッ、おししょさん、マジで、色っぽ・・・」

薄くなり、誘うように艶づく漆黒の瞳。
忙しない呼吸と、口角からだらしなく伝う唾液。
桃色に色づく肢体に纏う、細かな宝玉のような汗。
本当に彼女は僧侶なのかと疑ってもおかしくないような、そんな。

「も、ダメ・・・喰い千切られ、るッ・・・ぁあッ」
「ハァッ、う、アっ、ンッ」

互いに動きが早まり、呼吸が浅くなっていく。
繋がっている部分が激しくぶつかる度に飛び散る雫も、先程とは比べ物にならない量。
生温い惰性は、二人を最果てへと導き。
下肢から頭の先へと、言いようの無い痺れが駆け抜け。

「は、くゥッ、・・・アァッ」
「ッふ、あ、あ、あああぁぁぁ・・・・・・ッ!!!」

三蔵の身体がぐう、と縮まり、悟空の中心を痛いくらいに締め付けたかと思うと。
悟空も、己の滾りを、師の中へ解き放った。
力が抜け、ゆっくりと寄りかかる三蔵を、悟空はしっかと抱き締め、荒く息を吐いた。

―――今一度きっぱりと、“玄奘三蔵法師”という師、その存在を確かめるように。





「俺、明日っから不死身だぜ、おししょさん」

寝台の上で三蔵を抱き締めながら、いつものようにニカッと笑む悟空。
屈託の無い、純粋な子供の笑顔。
さっきまでの行為が嘘のように、悟空はそんな風に笑うのだ。

「そんで、おししょさんも不死身になったんだ。ひょっとして、俺達最強?」
「何を・・・ふふっ」

悟空の暖かさに包み込まれ、含み笑いを零しながら、三蔵は窓の外の月を見上げた。



―――月の中に翳りを落としていたあの鴉は、もう既に、夜の帳の中へと姿を消していた。





+++了+++

 

 

 

 

 

<AFTER WORD -後書->

月9西遊記一発目が18禁で、どうにもこうにもすいません。<本気平伏

もうほんとにね、二人が可愛すぎるからいけないんですよ、むほー!<誰かこいつに医者を
本編でも、悟空はおししょさんおししょさん言いすぎやしね、どんだけ愛しているのかと!
ほんでまた、悟空に好き好きオーラ出されてるにも関わらず、それに気付いてないっぽいしね。
あの天然&鈍感&へたれっぷりがね、どーしよーもなくハートにジャストミートなわけですよ。
ああもうかわゆいかわゆい。

んで、本編、もちっとエロシーン長くしようと思ったんですよ。
もっとエロく濃厚にしたかったんですけど、ボキャブラリーが貧困なもので、おっつきませんでした orz
一言付け加えておきますが、着衣のままえっつぃっていうのは、単に私の趣味です(どっかーん
萌え度が凄いんです、着衣のままっつうのは。
なんかもうね、脱ぐ間も惜しくって、いっぱいいっぱいな感じがするから好きなのです。
必要部位だけで繋がってるっつうのが好きなんです。
ええ、私はエロいですよ、うほ!<だからこいつに医者を

今、読んでくださった方がブラウザ閉じたに1000迦乳果。

あー、今見たら、ほんとにこの悟空黒いよなー(w
三蔵はどこまでも白いよなー。
明日から二人はほんとに不死身なのかなー(w

(2006/03/13)

 

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