俺の胸の下で喘ぐ麗姉は、今まで・・・何処か淋しげで。
それでいて、頭の奥が痺れそうになるくらい綺麗だった。
姉弟で抱き合う、ってシチュエーションが、余計に麗姉をそんな風に見せてたかもしれねェけど。

最近、麗姉は本当に“良い”顔をするようになった、って思う。
アイツが・・・あのふてぶてしい天空聖者が、家にやって来てからかな。
近親との恋愛、っていう非道徳から解放されたって感じの、俺から言わせれば、そう、安堵のような。
悔しいけど、アイツを血塗れにしてやりたいくらい憎いけど、仕方無ェことだ。

―――俺は麗姉の弟。アイツは・・・全くの他人。

血の繋がりと云う楔が打ち込まれている限りは、俺と麗姉が結ばれることは無いように思える。
アイツが言うように、俺は麗姉のパートナーとしては、相応しくないのかもしれない。
けど・・・俺は・・・



・・・・・・・・・麗姉を、愛してるんだ。

 

 

 

   ナフィラキー・ショック   ◆-◆-◆

 

 

 

「なぁ、麗姉」

髪を乱して善がる肢体に愛撫を止めないまま、俺は尋ねる。
酸素不足のその口から、声を出すことは出来ないらしく、薄く開いた瞼が『何?』と問いかける。

「いいんだぜ、アイツのトコに行っても」

鼻で嗤うように言った俺の言葉に、麗姉の眼がかっ、と見開かれる。
それは虚を突かれた驚きか、はたまた俺に対する怒りなのか。
汗ばむ身体がスライドして、俺から離れてゆく。

「俺は・・・な、恥ずかしいこと言うようだけど、麗姉のことが好きでたまんねェ。
 ・・・・・・でも、なんつうかさ、最近の麗姉は、前と・・・違うんだよ。
 こういうことしてる最中に、上の空になったりはしなかった・・・もっと俺のこと、真っ直ぐに見てくれてた気がする。
 だから、俺も真っ直ぐに愛せたんだと思う。けどさ、」

今、麗姉の瞳に映ってるのは、俺一人だけじゃない。
憎いアイツの微笑みが、麗姉の胸の奥に浮かぶ氷を溶かしている。



「アイツに抱かれたことある?」



自分でも驚くようなセリフを喋ったな、と思った刹那の後、俺の頬が急激に熱くなった。
頭の中で、脳味噌が激しく揺れた。



――― 一瞬遅れて、俺は麗姉に頬を平手打ちされたことを知る。



否、それで麗姉のことを怒ったり、嫌ったりするほど、俺の器は小さくない。
細い腕を掴んで白い身体を引き寄せて、もう一度、自分の下に彼女を組み敷いた。
潤んで丸くなる眼球、頬に掛かる黒い絹のような髪、カチカチと音を立てる奥歯。

「アイツのことを考えてる麗姉なんて・・・愛せない。愛したくない。
 アイツのことなんか、麗姉の頭ン中から全部消してやる」

吐き捨てるように言うと、俺の下で怯え、震える身体を抱き締める。
晒された素肌同士が触れ合い、鼓動が熱く高鳴る。
けど、麗姉の身体には、全く力が入っていず、俺はまるで・・・蝋人形でも抱えているようだった。

「俺じゃ・・・駄目なのかよ」

落とす言葉は総て、自嘲のナイフとなって、俺と麗姉の心をざくざくと抉る。
彷徨う俺の舌先は、彼女の歯茎を安らぎの場所とする。

「・・・ッン、ふ、ア、」

腫れそうになるほどに口唇を合わせても、俺の聞きたい声は返ってこない。
溢れる泉に指を突き入れ、熟れた蕾を優しく圧しても、俺が欲しい言葉は差し出されない。

漏れた吐息に含まれるは、艶か、それとも。
焦りばかりが、俺の背中を伝って落ちる。

「応えろよ、俺に」
「つ、・・・ンぅ、ば・・・」
「麗姉はどっちなんだ・・・俺が好きなのか、アイツがイイのか。
 それをハッキリ聞かせてくれねェと、俺は麗姉を今までみたいに愛せねェんだよッ」

この時、自分でもよく分かってたんだ。
おかしなことを言っている、麗姉のことも考えず、俺はバカなことを訊いている。
朧にゆらゆらと揺れる意識の中で答えを探す麗姉が、最も苦しんでいるとも知らず。
麗姉の返事がYESでもNOであろうとも、俺の気持ちは一つなのに。
本気で、こんなに、愛していると。

「・・・っは、わ、私は・・・ッ、分からな、い・・・ッ、ァ、」

艶やかに桃色を含む口唇から発せられた言葉。
その時だ。



     ズクン。



えもいわれぬ痛みが、俺の身体を燃やした。
今まで感じたことの無かった程の、業火のような熱さが。
もう一度、ハッキリと、その痛覚を意識した時、俺の眼の奥に、凄まじい暉が奔った気がした。

「逃がさねェからな・・・麗姉は、ずっと俺のモンだ。アイツなんかに・・・渡して・・・ッ」

息が、詰まる。
おかしい・・・喉が、苦しい。
これは、まるで、



「つば、さ・・・・・・・・・、泣いて、る・・・の?」



腕の中で囁いた人魚の頬に、ぱたり、ぱたりと落ちる雫があった。
それが、己の瞳から毀れた涙だと解った途端、少しばかりの吐き気がせり上がってきた。

恋慕が擦れ違っただけで、こんなにも悔しがる愚かさに。
好きな人が憎むべき奴を想っていると知っただけで、こんなにも大人気なくなる幼稚さに。
その心が自分のものにならないと思い知らされ、身体が燃え尽きそうなほど焦がれていることに。

―――胃の中の総てを吐き出しても、この感情が消えるわけでは無いのに。

「・・・・・・ッ、グっ」

身体がざわつく。
強烈な悪寒と、腕の痙攣。
そして。

「泣いて、なんか、無ェッ」

なにもかもを否定したくて、麗姉の疑問を打ち消したくて、俺は首筋に喰らいついた。
アイツなんかに、愛しい人を渡したりするものか。
麗姉は、俺のことだけ考えていればいい、俺だけを感じていればいい・・・!
俺だけの、俺だけの・・・愛しいマーメイド。
その徴を、此処にも、其処にも。

「い、ヤっ、あぁッ」
「愛してる、・・・愛してるんだよ・・・・・・ッ」

絞り出すような拒絶の叫びが聞こえた気がするけど、麗姉の身体を侵すのを止めない。





『翼、それは・・・・・・今していることは、愛していると言えることなのかい?』





咄、頭のすぐ後ろから、最も聞きたくない声が襲ってきた。
喩えるなら、鉄パイプで頭を殴打されたような。
その声は確かに、俺の行為総てを否定するかの如く、強烈に俺を打ったのだ。

「センセイ、か・・・。居るんだろ、出てこいよ」

カァと頭に血が昇り、振り返ってみるも、声の主の姿は何処にも見えない。
爪が掌を貫くかと思うばかりに拳を握り締め、低く呼び掛ける。
が、いつまで経っても、ヤツは現れない。

「魔法で、姿消してんだろ。ハッ、悪趣味だな・・・俺らのこーゆーコト、覗き見すんの楽しいか?」

微かに・・・気配が、俺の後ろで蠢いている。
俺を嘲笑っているのか、空気が妙に揺れている。
今すぐにでも気配のするところに握った拳を喰らわせてやりたいが、麗姉の手前、さすがにそうもいかない。
乱れたシーツの海の中で息を吐く彼女にそっとブランケットを掛けると、俺は脱ぎ捨てていたジャケットを羽織る。

「ココじゃマズいか?」

気配に尋ねながら、俺はドアノブに手を掛けた。



―――部屋を出る頃には、俺の中の熱い感情は、身を突き破る程に膨れ上がっていることだろう。





+++FIN+++

 

 

 

 

 

<AFTER WORD -後書->

なんだこの救いようの無さ。<お前が書いたもんです

きっとあれだ、東京事変の「修羅場」聞きながら書いたから、こんなカオス極まりないものになったのだ。
元々こういう雰囲気の話は大好物なんだけども。<おいおい笑えねぇよ
黄青のえっつぃを覗き見てんてーとか・・・何処の変態ですかこの人は _| ̄|○

そんでもって、毎度のことですが、終わり方がスゲー中途半端で申し訳ないです・・・ orz
この後、ベッドに放置された青い子がどうなったか、黄が金を殴り飛ばしたのか否かってーのは、
読んで下さった皆様のご想像にお任せするということで・・・<ある意味逃げたよこのひと

アナフィラキー・ショックという言葉、皆様はご存知でしょうか?
スズメバチに数回刺されちゃったら、抗体が異常反応してショック死、っていうアレです。
青の子の「分からない」という言葉が、黄の子の身を滅ぼすスイッチになったら面白いかな〜、なんて・・・

Σ(゚д゚lll) 私の頭の中身の方が面白いですかそうですか orz

黄青金、結末はどうなることやら・・・
今、いろいろ考えてる最中です。<えぇっ

(2005/11/24)

 

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