芳香の様子が、どうもおかしい。
そう感じていたのは、頭の切れる次男だけではなかった。

ウルザードとの戦闘の中で、麗は右手に軽傷を負った。
掌(たなごころ)の部分の皮が少しだけめくれ、とろとろと赤い血が流れて落ちている。
戦闘途中で「気持ち悪い」と言って急に気を失ってしまった芳香に、
「食べすぎ? それとも飲みすぎ?」と心配しながら水を持ってきてやった麗の、その掌の傷を見た途端。

「ちょ、ちょっと、痛いよッ、芳香ちゃん!」

いつもは気の抜けたような、ほわっとした優しい瞳が、肉食獣のような鋭い眼差しに変わったかと思うと。
芳香は麗の傷に直接口を付け、彼女の血をゆっくりと啜ったのである。

 

 

枯渇人魚ひと

 

 

「大丈夫・・・? どうしちゃったの? 芳香ちゃん・・・」

正気の沙汰とは思えない姉の行動に、麗はいよいよ不安になる。

倒れた拍子に、何処か悪い処でも打ったのではないか。
それとも、あの戦闘の間に、いつの間にか、ウルザードにおかしな魔法でも掛けられたのではないのか、と。

先刻の眼光の鋭さはすっかり失せ、ボーッと虚空を見つめる芳香を引っ張って、小津兄弟は家の中へと戻る。

「取り敢えず、俺達は・・・今後またウルザードと戦う時に備えて、少し作戦会議を開く。
 悪いが、麗は芳香を頼む。・・・いつもすまん、麗・・・こいつのお守りばっかりさせて」

蒔人はウルザードにやられた自分の傷を押さえ、放心している芳香の頭をポン、と叩くと、麗に苦笑を向ける。

「何言ってるのよ。任せてっ」

申し訳なさげな兄の表情を見て伏目がちになってしまいそうになりながら、
しっかりと姉の身体を支えつつ、麗は顔の前で拳を握ってみせる。

「それよりもお兄ちゃん、人の心配より自分の心配っ。翼から魔法薬貰って、早くその傷治さないと」
「ああ、分かった」

流石、小津家の母親代わりだ・・・
蒔人は微笑むと、魁と翼が消えた魔法部屋へと、小走りに駆け出す。
彼の姿が完全に壁に溶け込むのを見止めると、麗は芳香の身体を支え直し、階段を昇り始めた。





よたよたと歩く芳香を、やっとのことで彼女の部屋へ連れていく。
漆黒のローブを羽織らせたまま、芳香の身体を一旦ベッドに横たわらせる。
その拍子に、芳香のローブと麗の傷が擦れ、ちりりと軽い痛みが奔った。

「・・・っつ」

絆創膏でも貼らないと・・・
麗が芳香から手を離し、少しだけ自室に戻ろうと踵を返した瞬間。

「待って、麗ちゃん」

やけにハッキリとした声に、麗が振り向くと。
半身を起こし、爛々と光らせた眼を自分に向けている、いつもと違う姉の姿があった。

「あ、れ・・・芳香、ちゃん、大丈夫・・・なの?」

先程の放心した状態とは正反対の、何処か不気味な空気を孕んだ芳香の貌。
何か違う・・・普段の、笑顔が柔らかい彼女ではない。
麗は、無意識の内に後退っていた。

「行かないで・・・私の傍に居て」

静かに。
だが、低く響くような声で囁きながら、芳香はベッドからゆっくりと起き上がる。
身体を硬くして身構える麗に、ジリジリと距離を詰める。

「芳香、ちゃん・・・ッ」

怯える声を合図に、芳香は麗の肩越しに、壁にバンッ、と両手を付いて、彼女を拘束する。
途端、麗の頭の中で、本能が叫ぶ。

逃げろ。
芳香を突き飛ばして、早く部屋から出るんだ。

しかし、“水のように清らか”な心を持つ麗に、姉を突き飛ばして傷つけるような行為など出来はしない。
自分の顔の前に両の掌を翳し、肩を強張らせて、己を護ろうとする仕種。
壁に貼り付いている麗には、それが精一杯の抵抗の証だった。

と。

「いっ、痛いッ! 止めてよッ!」

再び、手から全身へと、チリチリとした痛みが巡った。
片目をぎゅうっと瞑りながら、もう片方の目で、その痛みの本(もと)を恐る恐る見てみると。

―――芳香の桃色の舌が、麗の傷を舐め上げている。

「麗ちゃん・・・」

濡れる口唇が、切なげに妹の名を紡ぐ。

「苦しいよ・・・。助けて、麗ちゃん・・・お願い・・・っ」
「・・・芳香ちゃん・・・っ!?」

芳香が首を傾けて呟いた時、彼女の瞳を覆っていた前髪が、さらりと流れた。
そして、熱い雫が一筋、落ちる。

「泣いてる、の?」



―――そう、芳香は微かに、確かに・・・泣いていた。



「苦しい・・・胸が、胸の中が、弾けそう・・・苦しいよ、助けて・・・ッ」

傷を舐め、時折喘ぐ芳香。
一体、彼女の身体の中で何が起こっているのか、麗には知る由も無い。

「どうしたのっ、何処が痛いの!? 何処か悪いんだったら、早くお医者さんに診てもらわないと!」
「ちが・・・ちがうよ・・・こんなの、病気とか、そんなんじゃないよ・・・」

しきりに「苦しい」と訴える芳香に、麗は慌てて彼女の肩を支える。
病院へ行くよう促すが、姉はなかなかどうして、首を横に振るばかり。

「そんなの分かんないじゃない、ちゃんと診てもらった方が」
「麗ちゃんの血」

麗の言葉を遮って、また芳香の声が鋭くなる。

「・・・え?」
「麗ちゃんの血を舐めてると、なんか・・・落ち着くの。身体の痛みが治まるんだ」

“自分の血を得ることで、苦しみが和らぐ”という信じられない言葉に、麗は戦慄いた。
そんな・・・狂気じみた話があるものか。

「な、何を・・・そんな、冗談みたいな・・・」
「冗談なんかじゃない・・・だって、ほら」

桃色の舌が二度、三度、麗の傷を往復すると。

「・・・ぅッ」

今度は、麗の背筋を電流のようなものが駆け抜けた。
壁に寄り添いながら、ずるずるとフローリングの床に座り込む。
芳香も、彼女に目線を合わせるように腰を下ろす。
その口許は、緩い微笑を含んでいる。

「今も、少し・・・身体が軽くなった」

芳香の細い指が、麗の顎に添えられ、ゆるりと絡み付く。

「ゃ・・・なに、するの・・・ッ、芳香ちゃんっ・・・」
「・・・麗ちゃん、お願いがあるの」

やや俯いて、上目遣いに姉の表情を窺う。
芳香は口角を持ち上げ、添えた手に力を入れ、麗の顔をくっ、と上げさせると。

「っっ!!!」

柔らかな麗の口唇に、芳香が喰らい付いていた。
抵抗しようにも、全身の力が抜けていって、拳さえも握れない。
瞼さえ重く、自然に閉じていく黒い瞳。
壁に身を預けるままにだらんと脱力している麗の姿を眼球に映すと、芳香はより強く口唇を吸い上げる。

「ん、は・・・ッ、ぁ、」

漏れる甘い吐息に合わせて、麗の口内に芳香の舌が滑り込んだ。
蛞蝓のように、甘美な匂いが歯列を蹂躙する。
歯茎を舌先で刺激し、内壁を伝わせ、唾液を塗り込める。
麗の舌が硬直していると分かると、そこに自分のものを絡ませ、緊張を解していく。
顔中に広がる微熱に、麗は徐々に上気していく。
充分に堪能したところで、芳香がそっと口唇を離すと、二人の間に透明な絲が煌いた。
蕩けそうな束縛から解放されて、麗は緩く瞼を持ち上げる。

「っは、ぁ・・・ほ、うか、ちゃん・・・ッ」
「やっぱり・・・麗ちゃんに触れてると、身体がすっごい楽になる。だから、お願い、」



『うららちゃんを、ぜんぶ、わたしに、ちょうだい』



酷く幼い発音で、芳香は言葉を落とした。
芳香は麗の返事を待たずして彼女の首筋に舌を這わせると、青いジャケットのボタンを思いきり引き千切る。
宙に舞った黒いボタンは、零れた泪の粒の如く、静かに、床に転げ落ちた。

―――癒しを与えるマーメイドよ、どうか、愚かな妖魔の血の渇きを潤し給え。





黒いTシャツを少したくし上げられ、其処から芳香の白い手が差し入れられた。
手早くホックを外すと、ぱさり、と下着が落ち、素肌の感触が伝わってくる。

「・・・・・・っん、やッ、やめ、て・・・」

麗の拒絶の言葉は届く筈も無く、芳香の指が忙しなく蠢く。
たわわな双丘をゆっくりと揉みしだいて、頂点を指先で突き、転がす。
緊張と弛緩をびくびくと繰り返す妹の身体を抱き締めると、一気にそのTシャツを剥ぎ取る。
白く、何者にも侵されていない無垢な肌が、其処に在った。

「麗ちゃん、凄くキレイ・・・」

すうっと腋のラインをなぞると、麗の顎がびくんっ、と上擦った。

「っふ、ア、うッ!」
「ラクにしててね・・・すぐに気持ち良くしてあげるから」

生まれたばかりの雛鳥に触れるように、優しく、麗の耳の縁を愛撫する。
芳香は絶えず両の指を動かしながら、麗の胸に顔を埋めると、勃った突起をぱくりと口に含んだ。

「あ、ンっ、ほうかちゃ・・・」

舌先で蕾を転がしていると、芳香も麗と同様に、身体が熱を持ってきたことに気が付いた。
切ない微熱に、知らない内に胸が高鳴っていたのだ。
その証拠に、二人の背中には、じわりとした発汗と、互いの腕が絡み付いていた。
麗は既に抵抗を止め、この突拍子も無い状況を受け入れざるを得なくなっていて。
芳香の背中に指を食い込ませ、快感を食んでいるようにも見えた。
自分の胸に時折立てられる歯の感触を逃すまいと、ぎゅっと目を瞑って。

「っ、気持ち良い? 麗ちゃん?」

胸から顔を離すと、芳香は麗の耳にそっと囁く。
はぁ、と息を吐いて、一度だけ深い呼吸をすると、麗は瞳を伏せたまま、コクン、と頷いた。

「じゃあ、もっともっと、麗ちゃんをちょうだい」

片腕を麗の背中に廻し、もう片方の手は、デニムのスカートの中へと忍び込む。
掌全体を使って、下着の上から核心に触れると、布越しに伝わってくる、淡い湿度。
ゆっくりと手を往復させると、麗は今まで以上に無い、大きな反応を見せる。
身体全体が仰け反るが、背中が完全に壁と密着しているので、彼女の逃げ場は何処にも無い。

「あ、あ、ん、はァッ」

忙しない呼吸を繰り返している麗の瞳から、不意に、涙が一筋、頬を伝う。
それを見た瞬間、芳香の頭の中で、何かが炸裂した。



―――ケモノになれ。牙を剥いて、爪を立てろ。猛り狂う本能で、彼女を犯してしまえ。



誰かが、意識の奥で、芳香を呼んでいる。
芳香の目に、火花が迸った。
頭が真っ白になる。
胸の中で、何かがざわつき始めて。

目の前の麗。
汗ばんだ身体。
ああ、こいつは。

・・・雌だ。

食い尽くす。
骨の髄まで。
さあ。
爪を伸ばせ、牙を埋めろ。

「ぅあ、あ、ッく!」

突然、芳香が身体を折り曲げ、苦悶の表情を見せる。
歯軋りをし、青筋を浮かばせ、拳を握り締めた。
ぼんやりと快楽の中に居た麗は、唐突に変わった姉の様子を見て、意識を呼び戻した。

「芳香ちゃん・・・!?」

窺うような声を出して、俯いた彼女に顔を寄せた途端。

「ガアッ!!!」

妖魔が、吼えた。
唾液に濡れて光る歯を、麗の首筋に埋め込ませる。

「うぁッ、ほ、芳香ちゃ・・・ッ!」

本来なら、こんな行為は赦されない筈なのに。
悦楽に溺れていた身体は、豹変した刺激に、過剰な反応をする。

「や、っあ、ンっ、あぁ!」

今の芳香に、先刻のような気遣いは何処にも無い。
発情期の雄の野獣のように、ただ乱暴に。
麗を壁に押し付けて。
秘部を覆っている布を、力一閃に剥ぎ取って。
同意も求めず、力を込めた指先を、麗の濡れそぼった部分に突き入れた。

「あァッ、はッ!!!」

内壁を擦る、細い指先。
鋭く息を吐いて、上擦る顎。
項を伝う、ねっとりとした汗。
芳香の指に絡み付く、甘い蜜。

「うンッ、あ、ふッ、ア、」

そして、湿った空気を含む声。
全てが、ケモノの本能を揺るがした。
熱く締め付ける麗の中で、芳香がぐるりと回転する。
親指が、茂みの中の核心を震わせる。
互いの身体の中に、ぞくり、と、似たようなものが這い回る。

“もう、無理だ”

理由は違えど、二人の理性は、弾け飛ぶ限界まで来ている。

「も、ダメッ、ほうか、ちゃ・・・っぁあああぁぁッッ!!!」

麗の内壁がヒクつき、今までの中で一番強く、芳香の指を縛り付けた。
仰け反った身体が、やがて、ゆっくりと沈んでいって。
肺に澱んだ空気を全て吐き出すと同時に、麗の頭の中が、カラッポになった。

―――そして、人魚の倒れ行く姿を映した妖魔の瞳も、ゆるりと伏せられた。

柔らかな午後の光が、カーテン越しに差し込む芳香の部屋で。
折り重なった二人の魔法使いの意識は、深く、闇に融け込んでいった。





+++FIN+++

 

 

 

 

 

<AFTER WORD -後書->

ごめんなさい。(精一杯の土下座

いやーっ、わたしなに書いてるの!
そして長い! エロにしちゃ長すぎる!
なんかすっごいこっぱずかしくなってきたんですけど!<今更
でも、エロたーのーしーいーーーッ!!!<腐ってるひと
片っぽ、もしくは双方着衣のままのエロとかすごくもえちゃうのは、やっぱ私がエロいってことですかね!<そうです
それから、壁際プレイとか、限りなく強姦に近い和姦とかももえちゃ(検閲局削除)
ごめん、一番最初に書いた桃青、スパンキングとかさせてた!<へんたい!
今気付いたけど、ラスト和姦じゃない! ほぼ強姦! どうしよう!<もう死んでいいよ

んん、桃青いいね、つーか楽しいの私だけだね、ダメね!(泣
基本的には青桃なんだけど、こういう時だけリバースするのって、なんだかすごくいい。
百合とかって、BLに比べて、遥かにうつくしいと思うのは偏見ですか。
つーか私ってただのバカ。

ここの時点では、まだ“芳香が吸血鬼になった”ことは分かってないのです。
芳香ちんも、自分の身体に何が起こってるか分かってないまま、意思の赴くままにこんなことを!
ころころ×2と、芳香ちんのキャラが変わるのは、きっと吸血鬼だから、ってことで<語彙力不足を認めなさいよ
この話の後、夜が来て、目を覚ました芳香ちんと翼ちんの掛け合いが始まるのです<妄想甚だしい

てか、芳香ちん運ぶの手伝ってやれよ蒔人にーちゃん。<そこツッコむところ違う
そしたら、麗ちん襲われずに済んだのに!
・・・って、そんな展開だと私的におもしろくなさげ!

結局あれだね、夏だね。<なにそのまとめかた

(2005/08/01)

 

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