炎と水は、いつ何時も、共に在ることは出来ない。
炎は水を畏れ、水は炎を殺してしまう。
けど、俺は・・・、今の俺は、そんな常識を覆すことも厭わない。

 

 

 

-Love-

 

 

 

「戻った、戻った、戻ったーーーッッ!!!」

俺を庇って、冥獣コカトリスに石にされてしまったちぃ姉。
ちぃ姉の忠告に従って、俺は石畳を鏡に錬成し、石化の光を撥ね返した。
自らの力で石になったコカトリスに、レッドファイヤーで止めを刺すと、ちぃ姉の呪縛は無事に解けた。
そん時、俺はバカみたいに喜んで、力が抜けて座り込んだちぃ姉を、加減もせずに抱き締めた。

「助けてくれてありがとう、魁」

そう言われて、頭を撫でられて。
なんか・・・ドキドキして・・・、変な感じになって・・・
“母さんみたいだ”って言ったけど、良く考えたら、あれ、照れ隠しだった・・・のかな?
ものすっげー鼓動が早くなって、それをちぃ姉に聞かれたくなくて。
思わず身体を離して、そっぽ向いてそんなコト言っちゃったんだけど・・・
自分で自分の気持ちが分からないなんて・・・おかしいなぁ、俺。
ひょっとして、ひょっとしてなんだけど・・・

―――俺、ちぃ姉に、恋、しちゃったのかな・・・?

もしそうだとしたら・・・俺、頭おかしいんじゃねーの?
ちぃ姉は、血の繋がったねーちゃんなんだぜ?

良く覚えてないんだけど、確か俺がまだ小さかった頃、一緒に風呂入って、背中流しっことかしたりして。
ちぃ姉が食べてたハンバーグとか、横取りしたりして。
悪戯で、背中にカエル入れたりして、ちぃ姉大泣きさせて、母さんに怒られて。
にーちゃん達にも、めっちゃくちゃ怒られて、家の外に放り出されたっけなあ。
それから・・・テストで悪い点取って、どうしようって思って答案用紙持ったまま、
家の前でウロウロしてたら、ちぃ姉がドアからひょっこり顔出して、「どうしたの」なんて言ってくるもんだから。
情けないことに、俺はちぃ姉に抱きついて、「こんな点数じゃ家に入れてもらえない」とか、
「『こんな頭の悪い子、ウチの子供じゃない』って言われたら」とか言いながら、びーびー泣いて。
ちぃ姉は、俺の頭を撫でながら、「大丈夫だよ、みんなそんなこと言わないよ」って、優しくあやしてくれたっけ。
「終わったものはしょうがないから、また今度頑張ったらいいんだよ?」って言ってくれて、
中間テストも期末テストの時も、夜遅くまで、バカな俺の家庭教師まで請け負ってくれてさ。
「ちぃ姉も学校があるのに、こんなに遅くまで俺に付き合って大丈夫なのかよ」って言ったら、
「人の心配より自分の心配っ」って返されて、頭小突かれたりして。

ちぃ姉は、なんだかんだ言って、俺を見守ってくれてた。
頼り甲斐のあるねーちゃんだな、って思ってた。
これまでも、これからも、ずっとこんな感じなんだな、って思ってたのに。

それなのに・・・ちぃ姉のこと、こんなに気になっちまうなんて・・・

咄嗟に、石から戻ったちぃ姉を抱き締めた時、おかしいな、って思ったんだ。

『ちぃ姉の身体、こんなに小さかったっけ?』

って。
俺を守ってくれる、しっかり者のねーちゃんが。
いつの間に、俺よりも小さくなっちゃったんだろう、って。
ちょっとだけ考えて、分かったんだ。

―――今度は、俺がちぃ姉を守らなきゃいけない。

俺は男だから。
先陣切って突っ走る、勇猛果敢な戦士だから。
時が経って、“ガキ”から“オトナ”になったから。
大事な人を守るパワーを身に着けたんだから。
俺が、必ず、ちぃ姉を守るんだ。





「魁、ちょっと来てくれる?」

リビングのソファに横たわりながらそんなことを考えてた俺は、想ってた当の本人の声で我に返る。

「ん、どしたの?」

視線を声の方に移すと、エプロン姿のちぃ姉が椅子の上に立って、棚からいろいろ下ろしてるみたい。
良く見ると、椅子の脚がガタガタしてて、ちょっと危なっかしい。
肢をスイングさせてソファから勢い良く立ち上がると、小走りにちぃ姉の元へ。

「あれ、今日はお好み焼きとか?」
「うーん、惜しい。ヤキソバにしよっかなー、なんて思ってて」

ちぃ姉が下ろしてたのは、ホットプレートだった。
そう言えば、こないだ兄弟みんなで夏祭りに行った時、ヤキソバ食べたかったんだけど、その夜店が無くてガッカリしたっけ。
だからかな、いつもは手間隙かけていろいろ料理するちぃ姉が、ヤキソバなんて簡単なメニューにしたのは。
ま、俺もヤキソバ好きだから、文句無しなんだけどさ。

「ちょっと重いの。次に鉄板下ろすから、本体をそっちに持ってってくれない?」
「うん、分かった」

言われた通り、コードのついた本体を受け取ると、ホイホイとテーブルまで持っていく。
テーブルの真ん中に置いて、次に鉄板を取りに行こうと振り返った瞬間。
ガタガタッ、と椅子がフラつき、ちぃ姉がバランスを崩して、ふわりと宙に浮き始めた。

「きゃ・・・」
「あぶねッ!!!」

それは、サッカーの練習の時では考えられないような瞬発力だった。
俺は床を蹴って、肩を前に出しながら駆け、すかさず両手を翳して、ちぃ姉の身体を受け止めた。

―――なんて、軽い・・・

まさか、こんなに軽いなんて思わなかった。
そりゃ、女だから体重は軽いに決まってるとか思ってたけど。
ビックリするほど軽くて、羽根みたくフワフワしてて。

・・・あ、まただ。
また身体がドキドキし始めた。
ヤバい、マズい、ちぃ姉に聞かれちまう。

「ビックリした・・・ありがと、魁」
「・・・・・・・・・」
「えっと、魁? あの、もう下ろしてくれてもいいんだけど」

やっべえ、自分のことでイッパイイッパイで、ちぃ姉をお姫様抱っこしたまま、身体が動かねー。
言われてることは、言葉として頭に浮かぶんだけど、それから次の行動に持っていけない。
どうしよう、変だ、俺・・・

「魁? 大丈夫?」
「あ、え、いやっ、あのっ・・・」
「ねぇ、下ろして。そうじゃないと、ご飯の支度が出来ないよ」

オロオロする俺に、ちぃ姉は呆れたみたいな苦笑を浮かべた。
真っ黒なその瞳が、少しだけ細くなる。
何処までも、俺の心の奥までも、見透かしてそうな・・・純粋な黒の色。

どくん、どくんと脈打つ俺の心臓が、ずきり、と痛み出した。
なんだ、これ・・・
もうなんか、頭も、胸の中も全部ぐちゃぐちゃになって、おかしくなっちまいそうだ・・・

と、無意識の内に、俺が寝転んでたソファに、放り投げるように、ちぃ姉を乱暴に下ろしてた。

「・・・っきゃッ! な、何ッ・・・何するの、魁、もうちょっと優しく下ろして、」
「ちぃ姉」

ちぃ姉の言葉を遮って出した俺の声は、自分でも驚くくらいに掠れてた。
誰の声だよ、コレは、と思うと同時に、俺はちぃ姉のエプロンを引っぺがして、
彼女の両手と両足をソファに押し付けて、自分の身体の下に組み敷いた。

大きな瞳が、更に丸くなって。
小さな身体が、ぐっと強張って。
黒くてサラサラした髪が、下ろされた拍子に少し乱れて、頬に掛かってて。



―――いつものちぃ姉とは、違うひとみたいだった。



「ちぃ姉、俺っ、さ・・・」

押し倒しときながら、なんで俺の方が震えてんだろう。
ちぃ姉の目を、真っ直ぐに見ることが出来ない。
でも、今の俺の気持ち、ちゃんと伝えなきゃいけない・・・
もう、これを逃したら、次の機会は無い、って思ったから。

「・・・・・・か、・・・い・・・・・・?」

いつまでもこんな恰好のまま、ちぃ姉を怯えさせたくない。
俺がしたいのは、そんなコトじゃなくて・・・
ただ、ちぃ姉を・・・

「俺、ちぃ姉が好きだ」

言った。
言っちまった。
けど、俺の覚悟とは裏腹に、ちぃ姉は少し笑って、こう言った。

「私も好きだよ? 魁のこと」
「ちがっ、そんなんじゃ、無くて」

きっと、ちぃ姉の言ってる“好き”は、俺の考えてる“好き”じゃない。

「俺は、本気で、ちぃ姉を」





愛シテルンダ。





「・・・っ、な、何言ってるの。私達は、きょうだ」

絞り出される言葉が終わらない内に。
俺の口唇で、その言葉を吸い取った。
俺の下で、ちぃ姉の身体が、ますます硬くなっていく。
俺達の息が詰まって、お互いの体温が上がってくのを感じる。
こんな強引な、無謀すぎるシチュエーションに、耳の後ろがジンジンする。
頭がフラッとしてきたから、俺は慌ててキスを止めた。

「っは、か、魁・・・ッ」
「・・・好き。好きだ、ちぃ姉」

はぁはぁと忙しない呼吸をしてるちぃ姉が、どうしようもなく愛おしくなって。
石化が解けた時よりも、ずっとずっと強く、その身体を抱き締める。

「ねーちゃんだからとか、弟だからとか、そんなんどうでもいいんだ。
 俺は、ちぃ姉が好きだから・・・守りたい。それだけ」

ホントの気持ちを、抱き締める腕に添えて、ちぃ姉にぶつける。
腕の中で、ちぃ姉の身体の強張りが失くなっていく。
そして、ちぃ姉の口唇が、俺の耳元で、小さく小さく囁いた。



『ありがとう。・・・・・・でも、ごめん』



えっ、と息を呑んで顔を合わせようとした途端、ちぃ姉はするりと俺の中から逃げていく。
投げ捨てられたエプロンを拾って、青のジャケットがキッチンへと消えた。
俺は、ただ、茫然と、その後姿を見ていることしか出来なかった。





拒まれても。
これだけは、俺の想いだけは。
キミに伝えたい。

たとえ、キミの気持ちが、俺に向かなくても。
永遠に結ばれない運命だとしても。

俺は、キミに恋してる。
俺は、キミを愛してる。

I, Love You, Forever...





+++FIN+++

 

 

 

 

 

<AFTER WORD -後書->

麗ちんがヤキソバて・・・キミ・・・(少しショックを受けながら)

えー、書いたのは私です、お、思いつき万歳!<ヤケクソ
簡易メニューにも程があるよ!!!<だからお前が書いたんだと

んで、あの、魁ちんがどうもキティク(しゃべれてないよ)ですいません。
えっとぉ、ほら、高校生だし・・・優良健康男児ってことで、ほら、お盛んn(検閲削除)
げほんごほん。
なんで微妙にエロ風味になってんだろう。
おかしいな、こんなつもりでは<なにこの白々しさ
魁ちんの、一途で、せんじんきってーつっぱしーるー(マンドラ坊や)イメージを出したかっただけで!
いやー、なんでどうして、青絡みってこんなに萌えるのかちら!<きっと私だけなんだろうけども

黄青のオハナシの最後にも書いたけど、近親との恋って、禁断の果実を食べてしまうようなものなのかしら。
それをやってしまった後に、唐突に、ハッ、と、事の重大さに気が付くとか。

つうか、私がオハナシを書くと、どうにもこうにも会話が多くなってしまうのがダメさね。
もっと、文章ちゃんと書けるようになりたし。

(2005/08/06)

 

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