誰が。
何時。
どうやって。





私の分身を殺したの。





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花ちゃんは仙光寺で“身を逆さま”に。
雪ちゃんは天狗の鼻で“冑の下”に。
耕助さん達が、そう騒いでいた。

私は、二人の死に様など、見たくなかった。

愛しかったから。
花ちゃんも、雪ちゃんも。

そう、人に「尋常じゃない」と言われても、私は二人を愛していた。

つい数日前まで、私の隣であんなに笑っていた筈なのに。
ずっと、ずっと、一緒に笑っていられると思ったのに。
永遠に一緒にいられるのなら、鵜飼さんのことも、本鬼頭のことも、どうでもよかった。
そんなもの、二の次だったのよ。



花ちゃんの、あの鳥の囀るような喘ぎ声。
雪ちゃんの、あの透き通るように白い肌。



布団の中で、何も着けていない体躯を擦り合わせて。
私は二人に指を這わせた。
咽喉に蒼い管が浮き、躰が弓なって、薄く開かれた口唇から漏れる、あの。

嗚、嗚、嗚、と。

なんて綺麗だったんだろう。
否、そんな言葉では陳腐すぎる。
思い出すだけで、背にざわざわと何かが過ぎる。

私が二人を愛した後は、花ちゃんも雪ちゃんも、柔らかく笑んで。
今度は私に舌を這わせてくれるのだ。
二人とも上手だったから、私も何度も白い世界を見た。

ぞくり、ぞくり。

躰中を駆け巡る、あの恍惚。
二人がいたから見られた、あの夢の国。





  そ  れ  な  の  に  !!!





誰が!
何時!
どうやって!

あの二人を殺したッ!?

赦せない。
断固赦すものか。
泣いてせがもうとも、二人を殺した者を、私は赦さない。

私には、そいつを殺す力がある。

『そうよ、月姉さん。殺しちゃいなよ』
『私達を玩んだ奴らなんか、みんな死ねばいいの』
『この島の連中は、なぁんにも分かっていやしない』
『月ちゃん、私達が手伝うわ。だから、さあ、早く』

くすり。

可。
そうするとも。
二人の無垢な嗤い声が、頭の中で私を突き動かす。



「これからお祈りするの。山狩りで悪者が捕まるように、ご祈祷するの。
 月代のお祈りって、とってもよく効くのよ・・・ふふ、あっハハハははハァッはッ」



あの二人を殺したのはきっと、花ちゃんが殺された時に噂されていた、“あいつ”だ。

私になら、できる。
力の強い男を、確実に殺すことができる方法。
それは一つ、呪殺すること。





二人が手を引いて、私を祈祷所へと誘ってくれている。

『はぁやくはやく、月姉さんっ』
『月ちゃん、うんと急がないと駄目よ』
「分かってるってば」

バチバチと、薪から焔が立ち上る。
火の粉が躍り、目の前が揺らぐ。

しゃあん、しゃらん、しゃん、しゃん。

鈴の音が、踊り始める。



「生駒の聖天さんも、河内の聖天さんも、皆々出で合い候い給え・・・
 オンバサラギニアンパヤソワカ、オンバサラギニアンパヤソワカ!
 我こそは世にも聖なる月代聖天也、あなとうとうあなとうとう、有難や有難やアァァッ」



鈴が一層、しゃん、しゃん、じゃらん、激しく啼いている。
炎に照らされ、闇に舞うそれらは婉しく、艶やかで、

「花ちゃん、雪ちゃん・・・っ」

ぞわ、ぞくり。

嗚、またあの感覚。
背骨が羽虫に覆われたような、なんとも言えぬあの怖気。



「雨の淵傍の耳振り立てて、人を示せと、かしこみかしこみ申す!
 祷の神祷の神、濯い給え清め給え!
 オンバサラギニアンパヤソワカ、オンバサラギニアンパヤソワカ!」



二人の指が、全身をざわめかす。
私の躰の其処かしこを駆り立てて離さない。

「ああ、ハァッ、ンっ、く、」

そんなに急かさないで。
心配しなくても、“あいつ”は私が呪い殺してやるから。
二人の仇は、私が必ず。

「んッ、ア、ふ、・・・・・・ァアアッ」

頭に、指先に、膝に、腰に、肩に、内腑に。
白い霹靂が迸る。
躰中から、力が抜ける。

「はな、ちゃん・・・、ゆ、き、ちゃ・・・」

きっと、一緒に。
また、三人で、優しい温もりを感じながら、布の海で溺れたいから。

『そう、ずっと一緒』
『月ちゃんは、私達と同じなんだから』

そうだ、いつまでも悦の余韻に浸っているわけにはいかない。
祈りを、“あいつ”が悶え苦しんで、怖気震って死ぬような、そんな祈りを。
私は、奉げ続けなければいけないのだ。





「オンバサラギニアンパヤソワカ、オンバサラギニアンパヤソワカ・・・!!!」





一人の哀れな女の、狂った嗤いと祈りの声が舞い踊る頃。










   きぃ、ぎ、ぎっ、きぃ、ぎっ。










その後ろに縄を持った翳が迫っていることを、彼女は未だ知らない。





+++了+++




















<AFTER WORD -後書->

大晦日になんて狂ったものをUPしてしまったんだ!

ふっ、不吉じゃ、不吉極まりない!<自分で書いといて

えー、Y溝正史氏のK田一K助シリーズの最高傑作と名高い「Gく門島」より、
最後に殺される本鬼頭三姉妹の長女・月代の独白を起こしてみました。
原作を読んだ方は知っていらっしゃるかもしれませんが、本鬼頭三姉妹は三人とも、
分鬼頭の居候であり手先でもある鵜飼さんに惚れています。


が。


それをそのまま起こし、三姉妹の愛憎劇を描いてみても、あんま面白くねぇなー、ということで。
同人作家の腐った血が騒いでしまい、結局百合方面に・・・ orz
(↑そんなパトスは脳内にしまっておけ私)

で、けっきょく南極大冒険 結局18禁(辛うじて15禁か?)めいたものになってしまいました。
なにがなんでも、こーゆー方向に持っていきたいみたいね、私 ('A`)
殺された二人の妹達の幻影に誑かされる月代・・・どんなファンタジーな頭しとるんかと!

-------------------- キリトリセン --------------------

余談ですが、私が思い描く「獄Mん島」は、I坂浩二氏が主演していたものではなく、
先日(2006/12/17)テレビ大阪で再放送していた、「女と愛とミステリー」のK川隆也さんversionです。

ほら、私ってMナKナさんファンだし。<結局そういうこと!?

あの三姉妹(このversionでは三つ子でしたが)が百合百合すっとこ想像してみそ!?
そーとー萌ゆるんじゃね!?みたいなね、むっはー!<はいはい変態はおかえり

雪枝の葬式のシーン、彼女の遺影を見て、無表情でその場を去った月代。
あの瞬間、月代の中で何かが変わり、やがて狂気に発展していったのだと私は思ってならないのです。
その“何か”が、自分の分身たる花子・雪枝に対する、行き過ぎて歪んでしまった愛なのかもしれない。

はい、見るべきところと観点がおかしい。

てぇか、祈祷シーン、何言ってんのかワカンネ ('A`)
(ほぼ耳コピです・・・今度原作読んで、間違ってたら直します)

(2006/12/31)

 

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