流れる絹髪は、澄んだ夜空よりも美しい紺碧
凝らす眸は、立ち昇る水泡[みなわ]よりも敢えなく無常
伸ばす指先は、樺の枝先よりも細く脆弱

翠天に瞬く数多の星々が堕ちて、貴女の髪に白い斑をつくる
夜の小丘にすらりと立ち、空のアーク灯に照らされたその姿は、
何処ぞの有名な画家の絵を切り取ったように偉容であった
様になる、という形容は陳腐すぎるほどに



―――凪が吹き抜け、私達を撫ぜ、過ぎてゆく



貴女の意志の強さを呈した双眸が、私を射抜いている
稲妻が駆け抜けたみたいに、動けなくなる

「・・・狡いわね、千早ちゃんは」
「私が?」

そう、貴女は猾い
端麗なルックス、歌に対する真摯な姿勢、そして冠絶した歌唱力
私に無いものを全て持ちながら、更なる高みを見据えている
憎らしくて、妬ましくて、感情が身を焦がし尽くさんばかりに燃え上がる

けれど、嫉視の眼で見つめたら、貴女がこの黒い気持ちに穢されてしまうような気がして
私はずっと貴女から眼を逸らしてきた・・・なのに





   『好き、です。ずっと、好きでした』   





やっぱり、貴女は猾い
私がうんと覆い隠してきた気持ちを、少しの躊躇もなく、こんなにさらりと言ってのけてしまうなんて



そして私は気付いてしまった
貴女を熱く見つめていたのは、[そね]みの念からではなく、狂おしいほどの恋慕であったのだと
貴女が私に対する恋情を抑えてきたように、気付かぬ間に、私も貴女に恋をしていたのだと



そんな私の胸中を知ってか知らずか、貴女はふ、と笑って、こう言うのだ

「“あの時”とは、逆、ですね」
「・・・・・・そう、ね」

“あの時”は、今この時とは全くの正反対の、街が眼を醒ます夜明けだった
辺りを満たす暖晄に包まれながら、私が小丘の上から少女を見下ろし、少女は小丘の下から私に愛を謳い・・・

「千早ちゃん」

彼女の絹髪が、冷え始めた夜風にさわさわと靡いて
それはまるで、蒼い鳥の羽が散りゆくような美しさ
“あの時”のことを思い出しながら、私は、ゆっくりと瑠璃鶲[るりびたき]に歩を寄せる

肩を並べて空を見上げようと、貴女の隣に立ってみる
けれど、貴女はすぐに私の前に来て、

「好き、ですよ」

そろりそろりと、口を開くのだ
未だに、こういうことを口に出す時、言う方の貴女も、言われる側の私も、
少し身体が固くなってしまうことが恥ずかしい
・・・馴れないものだ、私が未熟だからだろうか

「ふふ、知ってる」

年上らしく落ち着いたところを見せようとしても、隠しきれていないことが自分でも分かる
声が少し震えているのを勘付かれはしないかと、気を回す暇もないほどに、
貴女は真っ直ぐに私を見つめてやまない

「本当に、ずっと」
「・・・ん」

頷くと同時に、貴女に口唇を小さく啄ばまれ
私は、すっと、瞳を閉じた





寂寞の中で、星が囁く聲を聴く
・・・[そら]から、晄の粒が降り落ちる
青白く、儚く、優しく、絡み合い、貴女の背中に、真っ直ぐに注ぎ落ちる










 THE IDOLM@STER meets Kenzi Masubuchi --->>
 xxx RAY EMITED FROM VEGA xxx -- 











+++ Fin. +++




















<AFTER WORD -後書->

IM@S meets Kenzi Masubuchi シリーズ、第2弾です。
今回は、Track.05 “RAY EMITED FROM VEGA -ベガからの光線-”を使用。
あのギターの泣きメロを聴いて、疾走感の中に隠された寂寥の思いや、
覆い隠した熱情が頭に過ぎって、こんなショートショートになりましたとさ。
もうちょっと短くまとめるつもりが。あべし。

MARCH OF THE FOOLS の後日談。
そして、あずささん視点。
あずささんと千早が付き合い始めて暫く経ったくらい、かな。
夕焼けが身を潜めて、空が夜の色を宿してきたあたりの時間帯。
今度は、あずささんの方が、自主練している千早を、“あの公園の丘”で見つけるのです。

やっぱり、あずささんも千早のことが好きだった、っていうオチでした。
百合の真髄とは両思いにあり!!!<なに熱弁してんのこのひと
付き合って1年、2年が経っても、ちはあずはいつまでも初々しくあってほしいものです。
という私の願望も入れ込んでみました。

ちなみに、“空のアーク灯”とは、七夕でお馴染みの織姫星、つまりは琴座のベガのことです。
一等星だったはずだから、千早の黒髪に反射するくらいの輝きはある・・・よね?
自信ねえお・・・



(2008/08/25)

 

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